アパート・マンションの建築営業をしていると、「古くなったアパート」についていろいろな話を聞きます。
私自身が建築営業を長年している中で、少し面白い違いに気づきました。
「古くなったら入居者が入らなくなるんじゃない?」
「家賃はどんどん下がるでしょ?」
という不安は、まだアパート経営をされていない方からよく聞きます。
一方で、すでにアパートを所有している方からは、
「古くなると修理ばかりだよ」
「リフォームにお金がかかる」
といった話を聞くことの方が多いように感じます。
同じ「アパートが古くなる」という話でも、これからアパート経営を検討する方と、実際に経営している方では、気になるところが少し違うのかもしれません。
では、アパートは古くなると、本当に入居者が入らなくなり、家賃も下がり続けるのでしょうか。
この記事では、私が実際に市場調査をしてきた中で感じていることと、現在の賃貸市場のデータをもとに考えていきます。
古いアパートは本当に入居者が入らない?
「築年数が古くなると入居者が入らなくなる」
そう思われている方が多いようですが、私は必ずしもそうではないと思っています。
仕事柄、既存の賃貸物件について市場調査をしていると、築年数が経っていても入居率の良いアパートはたくさんあります。
その中でも、やはり強いと感じるのは立地です。
駅から近い物件はもちろん、買い物や通勤など生活に便利な場所、人気のあるエリアでは、築年数が経っていても入居がついている物件をよく見かけます。
また、人気のあるエリアや生活に便利な場所では、多少駅から離れていても入居がついているケースもあります。
つまり、
「古いから入らない」のではなく、築年数だけで入居が決まるわけではない。
ということです。
ただし、建物が建ったあとに立地を変えることはできません。
この記事をご覧になっている方の中には、相続で譲り受けた土地の活用を考えている方も多いと思います。
だからこそ、立地以外の部分で、築年数が経ってきたときにどうやって入居者に選んでもらうかも大切になってきます。
間取りによっても入居の動きは違う
市場調査をしていると、間取りによる違いを感じることもあります。
例えば、比較的広いファミリータイプの物件では、長期間住んでいる入居者も多く、築年数が経っていても空室がそれほど目立たない物件があります。
一方で、1Rなどの単身者タイプは、エリアによっては供給されている戸数そのものが多く、市場調査をしていると空室が目につくことがあります。
もちろん、
「ファミリータイプなら空室にならない」
「単身者タイプだから空室になる」
ということではありません。
また、ファミリー世帯の方が長く住む傾向は、データにも表れています。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の「第28回 賃貸住宅市場景況感調査(日管協短観)」によると、全国の平均居住期間は、単身世帯が3年3カ月なのに対して、ファミリー世帯は5年3カ月となっています。
私が市場調査をしていて「ファミリータイプは長期間住んでいる方が多い」と感じていたことは、こうしたデータからも確認できます。

ただし、その地域に単身者が多いのか、ファミリー層からの需要があるのかによって、求められる間取りは変わります。
そのため、アパート経営では単純に「何戸建てられるか」だけではなく、その地域ではどんな人が部屋を探していて、どんな間取りが求められているのかを調べることも大切です。
今の部屋探しはインターネットから始まる
築年数が経ってきた物件では、入居者にどうやって選んでもらうかも大切です。
今は、スマートフォンやパソコンを使って、インターネットで部屋を探す方が多くなっています。
家賃やエリア、間取り、設備などの条件を入力して検索し、表示された物件の中から気になる部屋を探していきます。
そのため、実際に部屋を見てもらう前に、まずはインターネット上で「この物件を見てみたい」と思ってもらう必要があります。
例えば、同じ築年数のアパートでも、昔ながらの和室や畳がそのまま残っている物件と、現在のニーズに合わせてリフォームやリノベーションをした物件では、写真を見たときの印象も変わります。
また、外観写真や室内写真も大切だと思っています。
築年数が経っていても、建物がきれいに管理され、明るく見やすい写真が掲載されていれば、
「古いけど、ちょっと見てみようかな」
と思ってもらえるかもしれません。
反対に、実際にはきれいな物件でも、掲載されている写真が暗かったり、古さを強く感じる写真しかなかったりすると、それだけで候補から外れてしまう可能性もあります。
アットホームが行った「オンラインでの住まい探しに関する調査 2025 賃貸編」でも、部屋探しの方法として「不動産ポータルサイトで検索」が最も多くなっています。
今は実際に物件を見てもらう前の段階から、入居者に選ばれるための工夫が必要になっているのだと思います。
物件名を変えたら問い合わせが増えたことも
建物は、工事が始まるとアパート名を決めて入居募集を開始するのですが、以前、なかなか問い合わせのない物件がありました。
立地も人気のエリアで、最寄り駅から徒歩10分圏内。普段なら問い合わせが多くあるような場所だったため、私たちも「なぜ問い合わせがないのだろう?」と疑問に思っていました。
まさかとは思いましたが、まだ建物の完成前だったこともあり、アパート名を変更して再度募集をかけてみました。
すると問い合わせが増え、約1か月後には満室になりました。
もちろん、物件名を変えたことだけが満室になった理由とは言い切れません。
募集のタイミングや周辺の状況など、何かほかの要因が重なった可能性もあります。
それでも、それまで問い合わせがほとんどなかった物件だったため、当時は私たちも驚いたことを覚えています。
この経験からも、物件の名前を含めて、インターネット上で入居希望者が最初に受ける印象は意外と大切なのではないかと思っています。
今はインターネット上でたくさんの物件を比較できるからこそ、実際に部屋を見てもらう前の「第一印象」も大切なのではないでしょうか。
家賃は築年数とともに下がり続ける?
「古くなったら家賃も下がるでしょ?」
これも、アパート経営を検討されている方からよく聞く質問です。
私は、長期的な事業計画を考えるのであれば、家賃は下がる可能性を想定しておいた方がいいと思っています。
実際に私がお客様へ提示している事業計画でも、当初の家賃がずっと続くという計算にはしていません。
私が普段使用しているシミュレーションでは、11年目以降、5年ごとに家賃が3%ずつ下落する想定で長期収支を計算しています。
例えば、新築時の家賃が10万円だった場合、単純計算すると、
10万円 → 9万7,000円 → 約9万4,000円 → 約9万1,000円
と下がっていく想定です。
ただし、これは「実際の家賃が必ず5年ごとに3%下がる」という意味ではありません。
あくまでも、長期のアパート経営を考えるうえで、新築時の家賃がずっと続くという楽観的な計画にしないためのシミュレーションです。
実際の家賃は、築年数だけではなく、立地や周辺の家賃相場、間取り、設備、建物の状態、リフォームの有無など、さまざまな条件によって変わります。
実際には家賃が上がっている地域もある
では、実際の家賃はどうなっているのでしょうか。
アットホームが2026年8月27日に公表した「2026年7月 全国主要都市の『賃貸マンション・アパート』募集家賃動向」では、アパートのシングル向き(30㎡以下)は、東京23区・東京都下・神奈川県・埼玉県・千葉県を含む調査対象13エリアすべてで、平均募集家賃が前年同月を上回りました。
さらに東京23区のシングル向きアパートでは、15カ月連続で2015年1月以降の最高値を更新しています。
つまり、建物は1年ずつ古くなっているにもかかわらず、市場全体では募集家賃が上昇している地域もあるということです。
これは、
「築年数が1年古くなったから、その分だけ家賃も下がる」
という単純なものではないことが分かる一例だと思います。

もちろん、この3物件だけで賃貸市場全体を判断することはできません。
また、同じ部屋を継続して追跡したデータではないため、設備やリフォーム、募集時期などの条件が異なる場合があります。
それでも、実際の募集履歴を見ても、家賃の動きは一様ではありません。
だからこそ、長期の事業計画では家賃の下落を想定しながら、実際の家賃については、その時々の周辺相場や物件の状態を見て判断することが大切だと思います。
築年数は変えられない。でも、変えられるものはある
アパートを長く経営していれば、建物の築年数は必ず経過していきます。
しかし、入居者に選んでもらうために変えられる部分はあります。
例えば、
- 室内をリフォーム・リノベーションする
- 今の入居者に求められる設備を取り入れる
- 外壁などを修繕し、建物の印象を整える
- 募集時の写真を見直す
- 必要に応じて物件名を見直す
- 周辺の家賃相場や競合物件を確認し、募集条件を見直す
などです。
すべてを一度に変える必要はありません。
大切なのは、空室が出たときに、
「古くなったから仕方がない」
で終わらせるのではなく、
「なぜこの部屋が選ばれていないのか」
を考えることだと思います。
家賃なのか、設備なのか、間取りなのか。
それとも、インターネットに掲載されている写真や募集条件など、実際に部屋を見てもらう前の段階に原因があるのかもしれません。
築年数そのものを若返らせることはできませんが、今の入居希望者から見て選ばれる物件に近づけていくことはできます。
まとめ|「古いから入らない」のではなく、古いまま何もしないことが問題
今回、築年数と入居、家賃について考えてきましたが、私が一番伝えたいのは、
「古いアパートだから入居者が入らない」というわけではない
ということです。
実際に市場調査をしていると、築年数が経っていても入居率の良いアパートはたくさんあります。
一方で、建物が古くなっているのに、設備も室内も外観も募集方法も昔のままでは、周辺の物件と比較されたときに選ばれにくくなっていく可能性があります。
つまり、
「古いから入らない」のではなく、「古くなっても何もしない」ことで、入居者をつけることが難しくなっていく。
私は、これが実際の賃貸市場を見ていて感じる答えです。
築年数や立地を変えることはできません。
でも、リフォームや設備、外観、募集写真、募集条件など、変えられるものはあります。
そして家賃についても、長期的には下落する可能性を想定して事業計画を立てながら、その時々の周辺相場や物件の状態を見て考えていくことが大切です。
アパート経営は、建てて終わりではありません。
建物が古くなっていく中で、どうやって選ばれる物件にしていくのか。
そこまで考えることが、長くアパート経営を続けていくうえで大切なのではないでしょうか。
また、築年数が経つことで増えてくる修繕やリフォームなどの支出については、前回の記事で詳しく書いています。


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